私にはお気に入りの傘があります。
私はその傘を開いて、そしてそれを傘の下から見上げるのが大好きです。
でも、私は雨は嫌いです。それは、その傘を差すことができないからです。
私は、雨や雪ではない限り、傘を差して歩きます。
「日傘ですか?」
―いいえ、この傘は紫外線から私を守ってはくれません。
雨や雪からも、私を守ることはできません。
「なぜ差しているのですか?それは、貴女に何をしてくれるのですか?」
―この傘は、私の心を守ってくれているのです。
これがあるから、私は生きてゆけるのです。
『ゆきと、この傘をお前にあげる。きっと暖かくしてくれるよ』
おばあちゃんが編んだその傘が私はとても大好きです。それは、とてもとても暖かいからです。
「寒いのですか?」
―はい。とても寒くて、凍えて消えてしまいたくなるくらいです。
「哀しいのですか?」
―いつからでしょう?こんなにも哀しくなったのは。いつからでしょう?自分が見えなくなったのは。
ウサギが居なくなってしまいました。とても暖かいウサギです。
「動物は死期を覚ると寒いところに身を隠すのよ」とおかあさんが教えてくれました。
・・・ウサギは居なくなってしまいました。
吐く息が、白くなる季節になりました。
葉も散りました。
私は、いつもより少し伏目がちにそれでも背伸びをして見ます。
空が青くてとてもきれいです。
あまりにも近くて、あまりにも青いので吸い込まれてしまいそうです。
私は傘をさします。オレンジや青やいろいろな色が混ざった毛糸で編まれた傘を。
ざっくり編まれた傘の隙間から見る空がたまらなくきれいで、私はこっそり目を細めます。
「・・・暖かく、なれましたか?」
―ええ、とても暖かくて優しくて、なぜでしょう?少し、涙が出てきました。
私は傘を差しています。少し肌寒いですが、背筋を伸ばして。
目をつぶると、とても優しくなれる気がします。
何故でしょう?頬を伝うものはあるけれど。
私は、大丈夫です。